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栽培暦   一、栽培の準備   二、種まき   三、小苗管理(育苗)   四、本鉢管理   五、開花期   六、種採り

六、種採り

 優秀な花を咲かせた株から種をとっておくことは、優良種の維持向上につながります。次の年も大輪朝顔をより楽しむための極めて重要な作業です。その種は、あなたの財産になります。
 大輪朝顔は、大輪となる遺伝子がいくつも組み合わさったものですから、自然に任せていると遺伝子が抜けてきて大輪に咲かなくなることがあります。
 特に大きく咲いた株はもちろん、色や模様の優れた花の株からは積極的に種採りを行い、優良品種の維持に努めたいものです。
 一方、あまりよく咲いてくれなかった株は思い切って淘汰し、優秀株への作業の集中を図るのも、朝顔を長く楽しむための工夫だと思います。
 また、特性の異なる品種どおしを交配して、欠点を補いあい、より優れた特性を得た花を育成するのも、大輪花を咲かせるのとはまた違った楽しみがあり、楽しみが増えます。

1 種採りのための栽培管理

 今までは大輪に咲いてもらうための管理でしたが、種採りのための管理はまた異なるものになります。
 午前中は日陰になり、湿気がこもるような環境に移し替えます。めしべを長時間保護し、種つきをよくするためです。そのような環境に恵まれない場合は、寒冷紗、または50%前後の遮光シートで朝日が当たらないようにするなどの工夫を行うやり方もあります。展示会用とは別に、初めから種採り用に栽培した株を用いるのも一法です。
 優秀花、貴重種を主に、展示会の期間中に出た株元の脇芽は取り除かず、展示会期間が終了したら伸ばし放題に伸ばします。
 蔓づくりの株は、すでにからませた蔓を少しずつ切り戻し、株元近くまで切り戻します。その一方で新たに出てきた蔓を支柱にからませます。
 切込づくりの株は、一回り大きい鉢に移し替えるか地植えして、脇芽の蔓を伸ばします。支柱を立ててからませます。
 液肥は一週間に一回程度、薄めのものを与えます。
 この時期はオオタバコガが発生し、花芯やせっかくついた刮ハ(さくか)を食べられてしまうことも多いので、防除管理を徹底しましょう。

2 種採りに適した期間

 最高気温が30℃を超える時期(7月下旬〜8月中旬)の花は、花粉やめしべが故障しやすく授粉にはあまり向きません。
 最高気温が30℃を下回り始めた時期から、最低気温が20℃ぐらいまでの期間の花が採種用に適しています。その時期の花は摘まずに残しておくと、授粉したものは花の元(子房)が膨らみ始めます。
 平均気温が15℃を下回るようになると、結実しても種が充実しにくくなります。

3 授粉から結実まで

(1)花が授粉するまでの経過

 朝顔の蕾が花として咲き始める時間は、一番早い夏至の頃で午前2時頃です。蕾の状態を見ると、雄蕊は雌蕊に届いていない状態雌蕊(めしべ)は雄蕊(おしべ)に比べはじめから長い状態で、開花が近づく頃から粘液が分泌され、花粉が着きやすくなります。一方、雄蕊が伸びて雌蕊に近づく様子雄蕊は夕方から次第に花糸が伸び始め、開花頃に雄蕊の葯が雌蕊の柱頭に届き、授粉した状態雄蕊の葯(花粉が入った袋)が雌蕊の柱頭に触れるようになります。これが授粉です。




(2)受精

 授粉した花粉は、花粉管を伸ばしながら花柱の中を下っていき、子房の中の胚のうに到達します。ここではじめて花粉の中にある精核が胚のう内にある卵核と合着し、受精します。受精卵は、繰り返し細胞分裂を繰り返しながら刮ハと呼ばれる果実となります。

(3)結実

 授粉をしておよそ10日すると、子房が膨らんできます。これが結実です。
 10日しても子房が膨らまなかったり、黄色くなったり、枯れてしまうものは結実失敗です。

4 優良品種の維持の必要性

 現在の大輪朝顔は、過去の優れた大輪朝顔を掛け合わせて育種されたもので、より大きく、より美しく咲くよう改良されたものです。冒頭に述べたように大輪となる遺伝子をいくつも持っていますが、代が下るにつれ遺伝子が抜けたり、変化したりして、だんだん大きく咲かなくなったり、美しい模様が抜けたりします。優良品種は少なくとも交雑しないように維持に努めたいものです。
 朝顔は自家授粉する花で、生殖器官が健全であれば、花が開くころにはすでに授粉が完了します。ですから、ミツバチなどが活動開始するころには授粉が済んでおり、虫媒の心配は少ないようです。
 しかし、中にはめしべが褐変していて授粉能力を失っているものや、花粉の出が少ないもの、おしべの伸びが悪くめしべに到達しないものなどもあり、そのような品種はなかなか種をつけてくれません。めしべが正常なのにおしべに故障が多い品種では、虫媒により別の品種の花粉が授粉して、交雑する可能性があります。
 そこで、このような種つきの悪い品種や貴重種は、人工的に授粉をすることで種をつけ、品種の維持に努めます。

5 優良品種維持のための様々な種採り方法の紹介
 <自然に任せる方法から人工的に授粉する方法(自家授粉)まで>

(1)自然に任せる

 垣根や網などに色とりどりの苗の蔓を伸ばし、花を楽しんだ後、種を採る場合です。比較的多いケースですが、異なる品種が虫媒などにより授粉をしてしまったり、蔓がからんで混種してしまったりすることがあります。できた種を播いた場合、本来の色でない花が咲いたりすることが多くあります。銘柄にこだわらない場合、この方法でよいでしょう。

(2)品種ごとに栽培場所をまとめたり、鉢栽培で他の品種の鉢と少し距離を置いて自家授粉させ採種する方法

 栽培場所や畑で大量に採種したり、管理に割く時間がない場合にこの方法をとる方が多いようです。
 一回り大きな鉢に移植するか地植えをして、1.5〜2mの支柱もしくはキュウリ支柱(ネット)に、一品種をまとめて開花させます。
 または、他品種と蔓が混じらないように、一品種ごとに距離を離して開花させます。
 特に花には虫媒防止の措置を執りません。この方法の場合、虫媒による確率は混植に比べてかなり低くなりますが、何しろ相手が蜂や蝶、時として蟻などですから、虫媒が起こりやすい採種の方法です。

(3)花に虫媒防止措置を執り自家授粉させ採種する方法

 夕方、翌朝咲くであろう蕾の先に、ビニールでコーティングした細い針金(約10p程度に切り分けておく。以下、ビニタイと表現する。)で、蕾の先端をビニタイで結束した様子花が開かないように結んでおくと虫媒を防ぐことができます。翌日の夕方、開かないまましぼんだ花のビニタイの結びを解き、花梗に自家授粉をした花であることの印である毛糸などで印をつけておけば間違いなく品種維持された種とそうでない種の区別がつけられます。

(4)人工的に授粉する方法

 種付きが悪い品種など自然任せでは採種が困難となる場合が多々あります。また、雄蕊の伸びが悪く、雌蕊に届かず授粉しない場合があります。このような場合、この方法がよいでしょう。
i 前日の準備
 前日の夕方に準備をします。遅い場合、雄蕊が雌蕊の柱頭に接触していれば、すでに自家授粉している可能性があります。このような場合、人工的な授粉はしません。
 蕾の下方にある子房の2〜3p上から、上方にカッターナイフで花弁を切り、雄蕊・雌蕊が見えるように開き、そして、ピンセットで雄蕊の葯をすべて取り除きます。
 虫などが侵入しないようにしっかりと袋などで包み、ビニタイで結んでおきます。コーヒーフィルターを半分に切り、袋代わりにするのも一法です。
ii 人工的な授粉の作業(自家授粉)
1.あらかじめ準備していた交配親♀の蕾のビニタイを解き、前日から少し伸びた花弁の先を少し(2〜3p)切り落とし、柱頭が見えるようにします。
2.交配親♂の蕾のビニタイを解いて、雄蕊が見えるようにします。
3.交配親♂の葯のついた花糸をピンセットで数本取り、交配親♀の柱頭に葯の花粉をやさしくこすりつけます。これで授粉の作業は終わりです。この時、交配親♂の葯の花粉を化粧筆にたっぷりと取り、交配親♀の柱頭全面に何度も塗りつけるのも一法です。なお、綿棒を使う場合、花粉の白色がはっきりとわかる黒綿棒を用いるとよいでしょう。
4.交配親♀を虫などが侵入しないように袋をかぶせて閉じ、ビニタイで結びます。コーヒーフィルターを半分に切り、袋代わりにして閉じるのも一法です。
5.人工的な授粉をした花であることの標(しるし)をつけておきます。

6 新品種の交配育種

 現在も極めて大きく咲き、美しい模様、色の大輪朝顔品種は多数あります。しかし、例え優れた品種でも欠点はあります。
 そこで、優れた品種どおしを掛け合わせたり、欠点を補い合う掛け合わせを行うことで、既存の品種を超える優れた品種を育成することができます。
 多くの先人が交配育種してくれたことで、行灯用品種はいっそう巨大輪となり、切込み用品種も柄、色、筒白の優れた花、容姿の優れた品種が育成され現在の大輪朝顔に発展してきました。自らの手で新品種育成することは、栽培とはまた違う楽しみがあります。
 ただ、新品種の交配育種をしたからといって、必ずしも大きくなったり、優れた花になるとは限りませんのでご承知ください。これも新品種育成の楽しみの一つであります。

人工交配法(他家授粉)の具体的手順

 人工的に他家授粉をし、交配種を作るのに適した方法です。これは、人工的に自家授粉をするか、他家授粉をするかの違いであって、方法は既述の、5 優良品種維持のための様々な種採り方法の紹介(4)人工的に授粉する方法と同じです。
i 交配親♀の準備
 前日の夕方(遅くとも19:00頃までに)に交配のための準備をします。遅い場合、雄蕊が雌蕊の柱頭に接触してしまっていて、すでに自家授粉している可能性があります。このような蕾は交配親としてはふさわしくありません。
 蕾の下方にある子房の2〜3p上から、上方にカッターナイフで花弁を切り、雄蕊・雌蕊が見えるように開き、ピンセットで雄蕊の葯をすべて取り除きます。この時、葯や柱頭が透明感のある白ではなく、茶色に変色していることがあります。授粉後や生殖器官が退化してしまっている可能性があるため、このような蕾は交配親として用いません。
 虫などが侵入しないようにしっかりと袋などで包み、ビニタイで結んでおきます。コーヒーフィルターを半分に切り、袋代わりにするのも一法です。
ii 交配親♂の準備
 蕾が開かないように、また、虫が入らないようにビニタイで結んでおきます。
iii 交配の作業
1.あらかじめ準備していた交配親♀の蕾のビニタイを解き、花弁の先を少し(2〜3p)切り落とし、柱頭が見えるようにします。
2.交配親♂の蕾のビニタイを解いて、雄蕊が見えるようにします。
3.交配親♂の葯のついた花糸をピンセットで数本取り、交配親♀の柱頭につけます。これで授粉の作業は終わりです。この時、交配親♂の葯の花粉を化粧筆にたっぷりと取り、交配親♀の柱頭や側面に何度も塗りつけるのも一法です。
4.交配親♀を虫などが侵入しないように袋をかぶせて閉じ、再びビニタイで結びます。コーヒーフィルターを半分に切り、袋代わりにして閉じるともっとよいでしよう。
5.交配した標をつけた様子。また、袋代わりのフィルターをかぶせた様子。花梗に記録用のナンバー札を取り付け、別に用意してある交配記録用紙に詳細なメモをします。交配日時・交配品種・それぞれの品種の色‥などを記録します。

7 種採り方法と種の乾燥

 結実し、充実する間、そのまま放置しておくと、虫に食べられてしまうことがあります。そのようなことがないよう袋で包み、種がある程度充実するのを待つとよいでしょう。この時もコーヒーフィルターなどの袋が役立ちます。結実後、1ケ月半から2ケ月すると、種は充実します。
 できた刮ハの色が緑色から褐色になり枯れてきて、がくが開いて外に反り返ったものから順にはさみで柄を切り離し、紙袋もしくは目の細かい網袋などの通気性のよい袋にさやごと入れて、風通しの良い日陰に吊るし、自然乾燥させます。なお、ビニール袋に入れておくとカビてしまいますのでご留意を。
 袋には、品種名を入れた札などをつけて、品種を取り違えないようにします。

8 種の保管

 種が十分に乾燥したら、刮ハをつぶして種を取り出し、紙の小袋に入れておきます。異なる品種の種が混じらないよう、一品種ごとに作業します。
 小袋には葉の特徴(アフセ、キセ、キフセなど)、花色、模様、品種名、採種年、品種の特性などを記入します。
 種の出納簿をつけておくと、次年度の栽培計画に役立ちます。
 種を入れた袋は、できるだけ乾燥するところに保存しておきます。梅酒づくりに使われるようなしっかりと密閉できるビンに入れ、乾燥剤(シリカゲル等)をたっぷり入れて冷暗所にしまっておくと長期間発芽力を失わずに保存できます。
 なお、種をビニール袋に入れて保存すると発芽力が落ちます。また、カビてしまいますので留意してください。
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 初版:2013年4月2日